かまわぬ手帖 vol.34 |手ぬぐいができるまで

かまわぬ手帖 vol.34 |手ぬぐいができるまで

手ぬぐいが生まれるまでの物語:注染の魅力と職人技

手ぬぐいがどのように作られるかご存じですか?今回の工場取材では、明治時代から続く染色技法「注染」に焦点を当て、2025年春の新作「いちご畑」がどのように生まれるのかをご紹介しています。防染糊を使った「板場」や、絶妙な色合いを生み出す「紺屋」の職人たちのこだわり、そして寒い冬場でも丁寧に行われる水洗い作業まで、全ての工程が分業制で支えられています。注染の手ぬぐいは、使うほどに色が馴染み、やわらかな風合いへと育つのが魅力です。

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皆さんは、手ぬぐいがどのように染められているかご存知でしょうか? 今回は「染工所」の現場にお邪魔して、今春新作の「いちご畑」を染めている工場取材に尋ねました。工場見学をしているような気分でお楽しみください。

染工場に到着して、最初に見えてきたのは通称「ダテ」と呼ばれている「干場(ほしば)」です。手ぬぐいがカットされる前は、1枚の長い生地の状態で長さは約12mもあります。そのため、干場のやぐらの高さは6m以上もあり、職人たちは足元に気を付けながら、手ぬぐい生地を天日干ししていきます。昔は川沿いにたくさんの工場があり、手ぬぐいが干場に掛けられている光景があちこちで見られました。歌川広重が描いた「名所江戸百景 神田紺屋町」にも、当時の情景が記録されています。

さて、実際に手ぬぐいはどのように作られているのでしょうか。工場の中をのぞいてみましょう!

かまわぬの手ぬぐいは「注染(ちゅうせん)」と呼ばれる明治時代から受け継がれる染色技法で染められています。その工程は、大きく分けて4つの工程で進められ、すべて職人の分業制によって成り立っています。

  1. 糊置き
  2. 染め
  3. 水洗・糊落とし
  4. 乾燥

今回は、注染の工程で重要な役割を担う板場(いたば)の職人と、染色工程を担当する紺屋(こうや)の職人のお二人にもインタビューしました。

What’s  板場? 

板場(いたば)とは、染色前の型付工程を担う職人を指し、”型紙”と”ヘラ”を使って防染糊を生地に置き、染める部分と染めない部分を分けていきます。板場は仕上がりを左右する要ともいえる存在です。

Q. 板場の立場から、特に気をつけている点や工夫していることはありますか?

A. 型紙に防染糊(以下:糊)を置くとき、細かいデザインだと糊が型紙を通りにくく、かすれるところが出てきてしまうので糊の粘度を都度調整しながら作業しています。生地の種類によって糊の硬さを変える必要があって、かまわぬが使ってる“上総理(じょうそうり)”という目が粗くて肉厚な生地には、本来柔らかめの糊の方が生地に糊が浸透して染まりやすいんですが、いちご畑のようなデザインには通常より固めの糊にしています。

糊をもっと固くすれば、染めたときに細かい部分がくっきり染まるんですけど、糊が固すぎると“ヒゲ”っていう、糊に亀裂が入って染料が糊の隙間に入り込んじゃう現象が起こりやすくなって染め上がりに影響するので、糊のベストな状態を見極めるのがポイントですかね。


糊置きの現場を見てみると、糊をリズミカルかつスムーズに型紙に置いていたのですが、その背景には熟練の技が隠されていることが分かりました。

糊置きが終わると、次は花形の工程といっても過言ではない「染色」です。

What’s  紺屋? 

紺屋(こうや)とは、染色工程を担う専門の職人または染める場所のことを指し、”やかん”と呼ばれる専用の道具を用いて染料を生地に注ぎ込み柄を染めます。繊細な色合いや柄の表現は、紺屋の高い技術に支えられています。

Q. いちご畑の色を再現するために、紺屋ではどのような工夫をしていますか?

A. 染める際、大きな色ブレが生産ロット単位で起きないよう、できるだけ一定の色合いを保つことを心掛けています。いちご畑のデザインには、濃淡を表現する“ぼかし染め”が多く使われているんですが、特に葉に使用している2色の緑は、黄みがかったり、青みが強く出たりと色ブレが起きやすいので、デザインとかけ離れないようにしています。染料は気温や時間の経過によって発色具合が変わるので温度管理が大切。デザインを見た段階で「この色を目指せばいいかな」というのが直感的にわかるので、微調整を加えながらイメージの色に近づけていきます。いちご畑は、差し分けやぼかしが多く手間はかかりますが、その分華やかな仕上がりになるので細かな色のニュアンスを楽しんでいただければ嬉しいです。

染料は、気温や湿度に影響されやすいため、寒さ厳しい冬場は特に事前準備や、細かな温度管理がとても大切なんだそうです。お話を聞きながらも、細かい染め分けの作業を手際よく染められているのが印象的でした。

さて、染色工程が終わるとつづいては「洗い」です。洗いは水元(みずもと)呼ばれる水洗い場で行います。ここで、余計な染料や、糊を落としていきます。上流から下流に行くにつれて水の透明度があがり、綺麗な手ぬぐいが水に浮かぶ光景は壮観です。

お湯を使用すると染料が滲んでしまうため、水洗いで行います。冬場は特に水が冷たいので、職人たちの計り知れない労力によって、手ぬぐいは作られていきます。

そして、洗いが終わった手ぬぐい生地は、みなさんに最初にご覧いただいた「ダテ」へ運ばれていきます。

手ぬぐい専用の脱水機にかけてから、天日干しを行います。生地に余分なシワがつかないよう、手でのばしていきます。天日干しをすることによって、生地がふんわり仕上がるそうです。お天気も、手ぬぐいを作るのに欠かせない要素なんですね。

生地がしっかり乾いたら、最後に「整理」の工程が待っています。

ここでは、生地を巻き取る「地巻き機」を使い、一反ずつ丁寧に巻いていきます。この作業も手作業です。生地に付着した糸くずを取り除きながら、シワを伸ばして整えていきます。一見簡単そうに見えるこの工程ですが、美しく均一なロールに仕上げるには、高い集中力が求められます。

こうして綺麗に巻き取られた反物生地を、90㎝毎に折り返し最後はハサミでカットし、加工して出来上がります。
多くの職人による分業体制を経て、一枚の手ぬぐいが生まれるまでの旅。いかがでしたでしょうか。

多くの人の手によって生み出される注染の手ぬぐいは、1枚1枚染め上がりの表情がわずかに異なります。使うほどに少しずつ色が生地になじんでくるのも、注染の手ぬぐいならでは。どうぞ、デニムと同じように、ゆっくり自分好みに育てながらお楽しみください。

次回は2月5日(水)更新予定です。